本研究の目標は、筋収縮滑り運動系(単一筋原線維、あるいは単一アクチンフィラメントのin vitro滑り運動系)における構造・力学特性変化と化学変化とを光学顕微鏡下で位相差像あるいは蛍光像として同時画像化することによって、筋収縮滑り運動における力学・化学共役(メカノケミカルカップリング)を分子レベルで明らかにすることにある。そのために我々は、顕微画像解析装置(2波長蛍光励起装置、倒立顕微鏡、蛍光用特殊フィルター、Double-view(W)光学系、超高感度テレビカメラ、ビデオ、画像処理装置)や、レーザー光ピンセット法(赤外レーザー光源、倒立顕微鏡(この方法のために改造中)、超高感度テレビカメラ、ビデオ、画像処理装置(一部は上と共用)を導入し、一方でアクチン分子に特異的に結合する蛍光物質SNAFL-Phalloidin(SF-Ph)を合成して、アクチン分子近傍のpH変化を画像化することを試みた。まず、(1)単一筋原線維中のアクチン(細い)フィラメントに(SF-Ph)を結合したところ、周囲の溶媒のpH変化に伴う蛍光強度の変化を画像化することができた。(2)SF-Phは一本のアクチンフィラメントを画像化することもでき、in vitro滑り運動系にも応用できることが判った。(3)レーザー光ピンセット法を用いて、in vitro滑り運動系で一本のアクチンフィラメントが発生する力とその揺らぎを検出した。その結果、非常に少数個のミオシン分子との相互作用の結果、収縮(滑り)力がパルス状に現れ、熱雑音のように揺らぐことが判明した。(4)アクチンフィラメントのin vitro滑り運動には、右ネジ回転運動が伴うこと、従って収縮力に右巻きトルク成分が存在することが示唆されたが(Nature誌上に発表)、このことを生理的環境下で証明すべく、高次構造を保持したin vitro滑り運動系を開発した。その結果、筋原線維内滑り運動においても右巻きトルクの存在が示唆された。
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