本研究の目標は、筋収縮滑り運動系(単一筋原線維、あるいは単一アクチンフィラメントのin vitro滑り運動系)における構造・力学特性の変化と化学反応とを光学顕微鏡下で位相差像あるいは蛍光像として同時画像化することによって、筋収縮滑り運動における力学・化学共役(メカノケミカルカップリング)を分子レベルで明らかにすることである。そこで我々は、顕微画像解析装置(2波長蛍光励起装置、倒立顕微鏡、顕微操作装置、蛍光用特殊フィルター・ミラー、Doubl-View(W)光学系、超高感度テレビカメラ、ゼデオ、画像処理装置)や、レーザー光ピンセット法(赤外YAGレーザー(1W)、倒立顕微鏡(赤外光導入用に改造)、W光学系、超高感度テレビカメラ、ビデオ、画像処理装置(一部は上と共用)を完成させた。一方、アクチン分子に特異的に結合し、しかもpH感受性の蛍光物質SNAFL-Phaloidin(FS-Ph)を合成したので、これを用いて、収縮・滑り運動に伴うアクチン分子近傍のpH変化を画像化することを試みた。その結果、(1)筋原線維中の細いフィラメントの両端(自由端側とZ線側)に結合したSF-Phの蛍光強度が、溶媒のpH変化に伴って変化することを画像化し定量化した。(2)等尺性収縮状態にある筋原線維において、ATP分解に伴うpHの減少を、蛍光強度変化として画像化することができた(1993.10の日本生物物理学会年会にて発表)。蛍光強度変化は期待以上の大きさで、pH変化にして0.2unit程度であった。当初は、H^+の拡散が非常に速いので、大きなpH変化としては捉えられないのではないかと予想し、筋原線維を油に浸すことなどを計画していたが、その必要はないかもしれない。ただし、蛍光強度変化の一部は、タンパク質の構造変化や、筋原線維がタンパク質濃厚系であることによるpH緩衝作用などに帰せられるようなので、今後は十分にコントロール実験を行い定量化を進めたい。
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