研究課題/領域番号 |
04403002
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西 信之 九州大学, 理学部, 教授 (60013538)
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研究分担者 |
笠谷 和男 福岡女子大学, 家政学部, 助教授 (10126964)
大橋 和彦 九州大学, 理学部, 助手 (80213825)
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キーワード | 分子クラスタ / 水の構造 / 疎水性水和 / 質量分析 / 溶液化学 / X線回析 / 超分子 |
研究概要 |
水に重量で1%程度ののエタノールを加えると溶液の性質がすっかり変わってしまうことが古くから知られていた。この溶液の中で何が起こっているかを、超分子構造の発生という見地から調べてみると、水溶液の問題全体に係わるような大きな事実が浮かび上がってきた。常識的には、この程度の薄い濃度では水溶液の構造に大きな変化は見られないだろうと思われていた。まず、X線回析によって動径分布を調べた所、0.28nmの氷型水素結合に対応する信号は、純粋に比べて20%以上減少し、代りに0.32nmの「双極子を揃えて水分子が直線状に並ぶ」ような配置に対応する信号と、「環状の水クラスターの周囲に配向した水分子」による0.38nmの信号が大きく増加した。次に、この溶液を断片化し、クラスターレベルで超分子の構造を調べたところ、エタノールの3量体から5量体が核となり、その周りに水分子が硬い殻(シェル)を形成し取り巻いていることが明らかになった。また、同時に純粋な水分子のみからなるクラスターは極めて少なくなっていることが解った。これは、このような低濃度でもエタノールがポリマーとして存在し、その周りを水分子が大きなシェルを作って囲い込みを起こすため、エントロピーが増加し、水構造が破壊されるためである。理論的には、このような「溶媒によって誘起される分子会合」がすでに予想されていた。X線回析と質量分析法によって、このような低濃度でも「溶媒によって誘起される溶質分子の会合」が原因で水構造が破壊されることを見いだしたのは、化学にとって極めて大きな発見であるといえる。これに対して、フェノールのようなpi電子系を持つ化合物は水の中で溶質分子の疎水基同士が直接重なるのではなく、ベンゼン環のあいだに水分子の層を挟む形で安定化していくことが明らかになった。水溶液中での超分子構造の発生には、疎水性が高い部分構造を持つ化合物が有効である。
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