研究概要 |
(X eX)分光とは単色X線を入射させ、コンプトン効果によるX線光子と非弾生散乱された反跳電子とをコインシデンス事象として計測することである。その時、電子とX線光子の双方の角度およびエネルギーを特定できれば、入射X線のエネルギーと方向は既知であるから、運動量保存則およびエネルギー保存則から衝突前の電子の状態を直接決定できる。その可能性については以前から指摘されてきたが、実験的な困難のため、未だ成功例は無い。その実現のためには可能な限り強い単色光を励起光源とすること、散乱X線を効率よく集光すること、そして反跳電子のみを識別して効率よく検出することの3点である。本研究では(X,eX)分光法の開発を究極の目的とし、上記3点の開発研究を行った。また、(X eX)分光実現のための必要な過程として、(X X)分光とも呼ぶべきX線ラマン散乱の測定と、X線を電子に置き換えた(e,2e)実験も行った。 まず、X線を効果的に集光および分光するシステムとして、R=820mm、75mmΦの球型Si(440)結晶を用いたもの、および円筒型グラファイト(004)結晶を用いたものの2種を製作し、非常に弱い散乱であるX線ラマンスペクトルを測定することに成功した(研究発表1)。ついで反跳電子のエネルギー分析をするための同心球型電子分析器(i.d.=64mm,o.d.=86mm)を製作した。これは設計値通りの約2e Vの分解能を持つことが確かめられ、(e,2e)事象を観測することに成功した(科研報告投稿中)。 こうして開発した要素技術を組み合わせ、(X,eX)測定を行ったところ、時間相関を持つ信号を得ることができた。しかしこの信号はコンプトン反跳電子ではなく、光電子である可能性が強く、現在更に実験条件等を検討中である。
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