研究概要 |
反応機構を明確にした溶液内化学反応や溶液内構造に立脚して、高選択性・高感度な速度論的分析法を系統的に開拓することが本研究の目的である。本年度は次のような成果を得た。 塩基性溶媒で、二座のエチレンジアミンのほか、かさ高く、立体効果が期待されるテトラメチル尿素(TMU)やトリアルキルリン酸エステルと言った溶媒中での金属イオンの溶媒和構造を、本年度購入した角度分散型X線吸収微細構造解析装置を用いて研究し、多くの興味ある成果を得た。たとえば、エチレンジアミン中の銅(II)イオンは3分子のエチレンジアミンを配位した軸位が延びた歪んだ八面体構造をしている。またTMU中では配位溶媒和数が、4(Co^<2+>,Cu^<2+>,Zn^<2+>)、5(Mn^<2+>,Fe^<2+>,Ni^<2+>)、6(Cd^<2+>,In^<3+>)と変化するが、これは金属イオンの大きさと溶媒分子のかさ高さとのかねあいによることを明らかにした。 バルクのエチレンジアミンと銅(II)イオンに配位しているエチレンジアミンとの間の溶媒交換反応の活性化パラメータから解離的交替機構で進行することを示した。また、TMU中では5配位、四角錐型溶媒和構造をとるニッケル(II)イオンに関する溶媒交換反応と錯形成反応を研究し、どちらの反応も、6配位、八面体構造のニッケル(II)イオンにくらべ非常に反応性が高くなることを明らかにした。 ポルフィリンのピロールの窒素原子にo-トリル基を置換した新規なポルフィリン(H(o-TolTPP)を合成し、そのX線解析の結果から、ポルフィリン環面が置換基によって大きく歪むことを示した。この構造解析結果に基づいて ^1HNMRスペクトルを同定し、溶存状態を推定した。またこのポルフィリンの亜鉛(II)イオンの取り込み速度が異常に速いことを示した。これはポルフィン環が面外にひずみ、窒素原子上の不対電子が面外にあるため、金属イオンと反応しやすいためである。そこでスルホン基を導入することによって、水溶性ポルフィリンを合成し、実際の速度論的分析法の一形式を案出した。
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