研究概要 |
平成4年度に導入し、平成5年度にストロンチウムやネオジムなどの陽イオンおよび白金族元素の陰イオンビームにより測定条件を確立した質量分析計をもちい、天然試料(JB-2と同等の熔岩)の白金族同位体希釈分析を行った。 濃縮同位体スパイクは^<191>Ir(96.2%),^<101>Ru(91.4%),^<198>Pt(44.4%),^<188>Os(86.7%),^<108>Pd(98.8%)を溶液化したものを用いた。50gの岩石に予想されるそれぞれ約2ng〜10ngの天然元素料に対して、約1ngのスパイク溶液を添加し、nickel-sulfideボタン法によるファイヤーアッセ-抽出・分離を行った。ボタンを濃塩酸に溶解後、その残渣を硝酸バリウムとともに白金フィラメント上に塗布し、測定を行った。イオン電流は10^<-13>Aが得られた。分析値は予想に反して測定のたびに大きく変動し、Irは0.03〜0.02ppb,Ruは0.4〜3.2ppb,Osは0.05〜0.9ppb,pdは1.0〜7.0ppbであった。これは(1)50gの粉末試料ではその中の白金属元素存在度が均質でないか、(2)スパイクと試料が十分に平衡に達していない事に原因があると考えられた。このためa)規定量の白金族試薬を岩石試薬に添加してその量を測定する,b)白金族元素のキャリヤ-として金を添加、c)スパイクと試料の平衡をよりよく達成するため熔融時間を3時間に延長する、等の試みを行ったが繰り返し誤差は100%に達し、一定の値を得るに至らなかった。この変動は試料として玄武岩(JB-2)の代わりにBushveldはんれい岩の粉末試料(白金族元素はJB-2より多く含まれる)を用いた時には約30%と小さくなった。これらのことから I)岩石中に含まれるppbレベルの元素とそこに添加した試薬間で同位体的な平衡を達せしめることは数時間の熔融では困難である。 II)岩石中の元素存在度が多くなった場合はやや容易に同位体平衡に達する。 III)より希薄な元素存在度において同位体平衡に達せしめるためにはa)岩石を一度溶液化し、溶液とスパイクの化学形が同じ状態で両者を平衡に達せしめる、b)スパイクを溶液ではなく珪酸塩に分散させた形で未知岩石試料に添加するなど従来の手法とは大きく異なった方策が必要と考えられる。
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