研究概要 |
最近,「機能性高分子の構造と物性の関係把握」と銘打った発表が学会で相当数に上がっているが,残念ながら,真に分子レベルに立ち,正当な方法論にのっとって議論した信頼性の高い内容の報告は極めて限られている.この現状を打破するためには,(1)結晶,非晶,および両者を含む高次組織の構造を明らかにするとともに,(2)原子分子の具体的な構造からスタートした理論を展開し,物性値の定量的予測を行なうことが必要である.我々は長年にわたり格子力学理論を基に高分子結晶域の構造と力学物性,電気物性との関わりを分子次元で調べ,かなりの成果を挙げてきた.本研究ではそれを非晶領域まで含む高次組織の構造-物性論にまで拡張発展させることを目標としている.そして,この難題に真正面から挑戦するための現時点で最も有望と考えられる武器,すなわち高速演算,大容量コンピューターを用いた分子設計支援システム(ポリグラフ)を導入した.本年度は,まず,物性の点で極めて重要であるにもかかわらず未だに結晶構造の解明されていないいくつかの高分子について,ポリグラフを用いたエネルギー最小化計算を行ない,最も妥当な分子構造および結晶構造モデルを抽出することを試みた.さらにそれらの結晶が示すべきX線回折や赤外ラマンスペクトルをシミュレートし,実測データと比較し,構造の妥当性をチェックした.例えば,ポリ(3-アルキルチオフェン)は高い電気伝導を示し,また温度を変えると試料の色が変化する(サーモクロミズム)など非常に特異的な挙動をするため工業的にも注目されている高分子物質である.エネルギー計算により4種類の構造モデルを選び出すことができた.それぞれのモデルについてX線回折パターンを計算し、実測データとの比較によって2種類にしぼりこんだ.現在最も適切な構造を抽出しつつあるところである.また,ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾールについては,その結晶構造について検討するとともに,極限弾性定数を理論算計し,さらに3次元方向に強力な高分子の設計に成功した.
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