研究概要 |
高分子の構造と物性との関連性を原子,分子のレベルから明らかにする新しい方法論として,コンピューター支援システムの開発を目指している.具体的には,原子,分子の構造からスタートし,結晶領域,非晶領域,さらにはそれらを統合した高次組織における分子鎖の凝集構造を,分子設計支援システム(ポリグラフ)を用いて明らかにし,さらには,これらの構造から期待される力学的性質,電気的性質を理論的に求め,実際に測定されている値と比較検討することを行なう.本年度は次のような項目について,このシステムの有用性をチェックした. (1)ポリエチレン分子鎖の凝集構造と振動スペクトルの関わり:重水素化ポリエチレンと水素化ポリエチレンの共晶化試料は,同種鎖(例えばH鎖同士)の間の振動カップリングが他種鎖(例えばD鎖)の共存によりカットされるために,振動スペクトルのプロファイルがH/D組成とともに大きく異なってくる(K.Tashiro et al.,Macromolecules,印刷中).この現象を解明するために,ポリエチレン結晶中にD鎖とH鎖とを様々に配置した構造モデルを構築し,振動スペクトルをシミュレーションした.結果は実測データをよく説明し,高分子結晶化の機構の分子レベルでの解明に一歩近付き得た. (2)強誘電高分子の構造と相転移現象:例えばフッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体やシアン化ビニルデン-脂肪酸ビニルエステル共重合体は,強誘電性あるいは反強誘電性高分子として注目されている.これらの高分子結晶域における分子鎖の凝集状態をエネルギー最小化法により求め,かつ,X線回折パターンや振動スペクトルパターンをシミュレーションし,実際のデータと比較した. (3)ダイヤモンドを凌我する新規高分子の分子設計:一般に高分子物質は鎖軸方向とそれに垂直な方向とで弾性率が2桁も異なり,超高弾性率ポリマー開発の上で様々な問題を抱えている.今回,三次元方向いずれにも極めて高い弾性率を有する新規高分子材料の設計に成功した.これらの高分子は現在最強とされているダイヤモンド結晶よりもはるかに高い弾性率を呈することが理論計算上明らかにされた.現在,その合成ルートの考案を行なっているところである.
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