本年度は、免疫グロブリンG(IgG)における情報受容(抗原認識)とそのエフェクター機能発動への変換の機構を明らかにするために、抗原結合部位とヒンジ領域に焦点を定めて核磁気共鳴(NMR)法による動的高次構造解析を行った。その成果は、以下の通りである。 1.各種の安定同位体( ^2H、 ^<13>C、 ^<15>N)標識法を利用して、多数のNMRシグナルの帰属を行い、抗原結合部位およびヒンジ領域のほぼ全域を網羅する高次構造解析のプローブを設定した。 2.抗原-抗体間の分子間NOEの測定、およびスピンラベル化ハプテンによる緩和効果の定量によって、可変領域における直接的な抗原結合部位を特定した。 3.帰属の確定したNMRシグナル化学シフト変化を指標にして、抗原結合に伴って抗体分上に誘起される高次構造変化の伝播造変化の伝播範囲を特定した。 4.主鎖アミド位における水素-重水素交換速度を測定し、抗原結合に伴って可変領域の広範囲にわたって動的溝造変化が誘起されることを明らかにした。 5.NMRシグナル緩和時間を指標にして、(1)抗原結合部位の多形性を明らかにし、また、(2)ヒンジ領域を形成する個々の残基の運動性を評価した。 6.IgGの主鎖カルボニル炭素の ^<13>CNMRシグナルが免疫複合体中においても観測可能であることを見出し、超分子集合系を対象としたNMR法の可能性を開拓した。
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