高分子量蛋白質複合系を対象とした安定同位体利用NMR法の方法論を開拓し、多機能蛋白質の情報受容-変換機構を解析する基幹技術を確立した。特に、免疫グロブリンを題材に、抗原認識およびエフェクター機能の発現を司る部位の動的高次構造を原子レベルで明らかにし、情報の変換・媒介において重要な役割を果たすヒンジ領域に関して、その動的性質を明らかにした。具体的な成果は以下の通りである。 1.抗体分子上における抗原結合部位を決定する方法を確立するとともに、抗体との複合体中におけるハプテンのコンフォーメーションを決定した。同様の方法を用いて、細菌性IgG結合蛋白質とFabあるいはFcとの結合様式を明らかにした。 2.NMRシグナルの化学シフト変化を指標にして、リガンド結合に伴って抗体分子上に誘起される構造変化の伝播範囲を特定することに成功した。また、水素一重水素交換速度を測定し、リガンド結合あるいはドメイン間相互作用したに伴う抗体の動的構造変化を検出するとともに、各ドメインの動的特性を明らかにした。更に、NMRシグナルの緩和時間に反映される化学交換を検出し、機能部位の多形性を明らかにした。 3.NMRシグナルの横緩和時間を指標にして、IgGのヒンジ領域を形成する個々の残基の運動性を評価し、ヒンジ領域が柔軟な部分と堅固な部分が交互に連なった動的に不均一な柔構造を形成していることを明らかにした。また、免疫複合体中においてもヒンジ領域の中の柔軟な部分の存在によって、Fc部分の運動性は保持されていることを明らかにした。 4.Fcに普遍的に結合しているN-結合型糖鎖を遺伝子工学的手法を用いて取り除いたIgG変異体を用いてNMR解析を行い、この糖鎖がIgGの機能部位の構造構築にかかわっていることを明らかにした。
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