エチレン生合成の律速酵素、アミノシクロプロパンカルボン酸合成酵素のアイソザイム遺伝子の発現特性を明らかにするため、トマト、カボチャの傷害誘導型(W型)、オーキシン誘導型(A型)及び追熟誘導型(R型)酵素のcDNAを利用して各アイソザイム遺伝子の発現様式を解析して以下の成果を得た。 1.W型遺伝の発現はカボチャ、トマトの果実、茎何れの組織でも組織傷害を与えた時のみに発現するが、その発現はオーキシン、アブシジン酸で促進された。カボチャ未熟果実における促進効果は特に顕著であった。サイトカイニン、ジベレリンは傷害刺激との相乗効果を示さなかった。無傷組織にオーキシン、アブシジン酸を与えてもW型遺伝子の発現は認められないことから、オーキシン、アブシジン酸は傷害の信号伝達系を促進するものと推定した。 2.A型遺伝子はカボチャ果実では発現しなかったが、カボチャ、トマトの茎、トマトの未熟果実の切片においてはオーキシンによってのみ発現した。サイトカイニン、アブシジン酸は単独ではA型遺伝子の発現をまったく誘導しなかったが、オーキシンによる発現をサイトカイニンは顕著に促進し、アブシジン酸は抑制した。したがって、アブシジン酸はW型遺伝子とA型遺伝子の発現において逆の作用を示した。 3.W型、A型遺伝子の発現は共にエチレンによって可逆的に抑制された。 4.R型遺伝子はトマト果実の追熟開始と共に発現し、追熟の進行に伴ってその発現量は増加した。この遺伝子は他の組織ではまったく発現しなかった。また、果実に傷害を与えるとW型遺伝子の発現は増加するが、R型遺伝子の発現は完全に停止した。トマト果実では無傷でもW型遺伝子が果実の追熟とともに発現したが、追熟進行に伴う組織軟化が傷害要因となっていると推定した。
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