本研究では、まずシダ植物に幅広く適応できるrbcL遺伝子の塩基配列決定法を開発することから始めた。試行錯誤的な研究を行った結果、同一のユニバーサルプライマーを用いてシダ植物から被子植物まで、同じシステムで増幅することが可能になった。さらに本研究の平成4年度分の経費で購入したDNAシークエンサーと組み合わせることで解析に必要な時間も大幅に短縮され、2.5日程度で一つの種のrbcL遺伝子の約1200塩基対の配列を決定できるようにした。この方法を使ってシダ植物の全体を網羅できる32科107属から1種づつ選んで解析し、得られた塩基配列の比較からその系統樹を作成した。その結果、シダ植物の科レベルの大まかな系統関係が明らかになり、オシダ科、コバノイシカグマ科のように従来使われてきたシダ植物の大きな科が単系統群でないことが示された。また、本研究では、チャセンシダ科について科の内部の細かい系統解析も、この分子系統学的解析法を用いて行った。チャセンシダ科は、その内部の系統関係が全くわかっていなかった群である。今回の分子系統学的解析により、その系統関係が明らかにされ、葉の構造は系統を全く反映していないことがわかった。ホウビシダ類は、これまでチャセンシダ属の中の一群として扱われてきたが、チャセンシダ科の中で最も原始的な(系統樹の最も根本でほかの種群と分岐した)群であることもわかった。さらに、ホウビシダ類については20種、その中のヤクシマホウビシダ群についても17サンプルについてrbcLの塩基配列を決定した。これら近縁種群間の系統解析においても分子系統学的手法は有効であった。以上のように我々が開発したシダ植物のrbcL塩基配列決定に基づく分子系統学的手法は、科の間の関係のように遠く離れたものから、ヤクシマホウビシダ群のように種以下のレベルまで幅広くその系統解析に有効であることが明らかになった。
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