研究概要 |
肝臓の異物代謝酵素P450の変動要因としてa)遺伝的要因,b)性,年齢,c)肝障害,d)肝臓癌,e)その他の疾患,f)異物による暴露の影響が考えられる。それぞれについて実験動物を用いて変動の様子を検討した。コントロールされていない環境下に棲息する野生動物の異物代謝酵素活性について研究するに当り、問題となるのは、様々な要因により肝臓の異物代謝に変動を来している可能性である。野生エゾヤチネズミのなかにCYP2Dの異常と考えられる個体が数例含まれていた。そこで、CYP2Dに遺伝的異常が知られているDAラットをモデル動物として様々な異物代謝能力を測定すると共に、遺伝的な異常の要因を明らかにするため、遺伝子レベルでの研究を行った。DAラットにおけるCYP2D1の欠損はmRNAが何等かの理由で合成されないためであるという報告がある。この報告と同じ方法で追試したところ、mRNAは転写されており、DAラットのmRNAからCYP2D1のcDNAの配列の一部を合成出来た。DAラットに置ける活性の低下はむしろCYP2D1のアミノ酸の置換による活性喪失と考える方が妥当かも知れない。LECラットにおける自然発症肝癌組織と周辺組織でのP-450依存代謝活性を調べたところ、肝癌組織でP-450分子種選択的に活性の低下が見られた。雄の方が雌より活性の高い性差のある代謝活性はほぼ雌のレベルまで低下した。一方、雌で雄より活性の高い反応の活性は雄で上昇せず、従って、老化の場合のような機能的雌性化とは異った。また、周辺組織でも活性の低下が見られたが、癌組織ほどの低下は見られなかった。汚染環境下で野外で棲息する野生動物においては、様々な汚染化学物質が生体の異物代謝機構に影響を与えていることが考えられる。そこで、モデルコンパウンドを用いてその影響を調べ、誘導、阻害などの影響について検討した。モクズガニのP-450含量と河川の汚染の程度、特に多環芳香族炭化水素汚染との間には正の相関があった。汚染物質がP-450の誘導を行うためであると考えられる。P-450を環境汚染の指標酵素として利用することが出来ると考えられた。イヌ上科肉食動物(イヌ、キツネ、ミンク、クマ)の異物代謝酵素活性はラットと比較すると概して低いが、イヌ、キツネは活性が高く、ミンクは極めて低い値を示した。
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