研究概要 |
昨年度の結果をふまえて、Ca/calmodulin依存性protein kinase(CaMK)のII型のγとδサブユニットの脳内遺伝子発現局在を調べた。成体ラットの脳では、嗅球と梨状葉皮質で両サブユニットが同様に発現していた。大脳皮質ではγ型が一様に中程度に発現するが、δ型は層状の発現を示した。海馬錐体細胞と歯状回果粒細胞ではγサブユニットは強く発現するが、δの発現は示さない。小脳ではγの発現がプルキニエ細胞に中程度で限局するが、δの強い発現は果粒細胞に限局する。脊髄では、γの発現は灰白質に広く見られるが、δの発現は第1層とIX層のニューロンに限局する。両サブユニットの発現は弱いながらも出生時に基本的な完成するが、線状体とプルキニエ細胞はそれぞれγとδを出生時に一過性に強く発現する。つぎに、CaMKIVのβサブタイプのcDNAクローニングをおこなった。既知のαサブタイプとはN端のアミノ酸28コが異なるだけであった。ところがそれらの遺伝子発現は大きく異なった。すなわち出生時には両方とも小脳と大脳の皮質にmRNAsの発限が認められるが、成体ではαが小脳のほかに大脳皮質にも弱いながら発現されるのに比してβは小脳のみ限局して強く発現する。これらの所見から、CaMKII型の各サブユニットおよびIV型は脳各部位でいろいろに発現調節を受け、それぞれが発達期と成体期の脳で多様な機能に関与していることが示唆される。さらに昨年度得られた80kDa-DGKのcDNAを基に、ニューロン特異的アイソザイムのクローニングをおこなった。得られたのはアミノ酸801コからなる90kDa-DGKで、zinc-finger様配列、E-F hand motif,ATP結合部位をもち、長鎖脂肪酸を好んでリン酸化し、膜分画に存在する特徴を有する。脳内では線状体、側坐核と嗅結節に強く発現する。この発現パターンはホスフォリパーゼC-とプロテインキナーゼC-のと類似するので、それらと関連して作用を発揮することが示唆される。これらの所見をもとに、さらにCaシグナルの機構を追求していきたい。
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