ハンチントン病は、(1)成人発病の舞踏運動、(2)知能・精神障害、(3)常染色体性優性遺伝、という特徴を有する神経変性疾患である。その遺伝性については、突然変異率が著しく低いこと、浸透率がほぼ100%であること、などの特徴がある。この疾患の異常遺伝子座は、22対の常染色体上のどこかに想定されながらも、長い間不明のままであった。それに対して1983年、米国のグゼラ博士らはDNA多型(RFLP)を利用した連鎖解析によりハンチントン病の病的遺伝子座が第4染色体短腕先端部に局在することを証明した。その後、RFLPを呈する遺伝子マーカーが数多く4p16.3領域に見出され、それらを用いて連鎖解析が行なわれたが、我々もプローブの供与を受け検討した結果、特に日本人においては4p16.3領域のうち、第2セグメントのDNAマーカーを用いて時に強い連鎖を示すことを発見した。この事実は、欧米のハンチントン病で明らかにされている点、すなわち組み換え個体で共通にもつ部分のローカスが第2セグメントにあること、連鎖不平衡現象を認めるのは、第2セグメントにローカスをもつ遺伝子マーカーを使った場合のみである、などの事実により支持されている。次に我々は癌研・今井高志博士との共同研究によりこの領域のYACライブラリーを作成し、そのうちで第2セグメントのほぼ中心付近にあるD4S95ローカスを含むYACクローンを用いて、ヒト線条体で作成したcDNAライブラリーの中から、候補遺伝子を見出すプロジェクトを行なった。その結果、D4S181及びD4S95のローカスに極めて近い領域に座位をもつ1.3kbのcDNAを得ることができた。これをハンチントン病の原因遺伝子の候補とみなして、その全塩基配列を決定した。最も長いORFによると、87個のアミノ酸よりなる配列であり、ホモロジー検索の結果からは既知の蛋白とは異なっていた。
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