ハンチントン病は常染色体優性遺伝する神経変性疾患である。その遺伝子座は第4染色体短腕先端部にある。その遺伝子の同定を目指した本研究では、その初期において遺伝子同定が米国で成功したので、その後はその遺伝子の生物学的特性についての研究に切り替えた。 (1)ハンチントン病の遺伝子同定のために、連鎖不平衡を示す領域から未同定の遺伝子を釣り上げることを計画し、酵母人工染色体クローンを作成した。ここからいくつかの遺伝子を同定したが、それらは残念ながらハンチントン病とは関係のない遺伝子ばかりであった。 (2)ハンチントン病の原因遺伝子としてIT15が同定され、その異常が遺伝子内のCAGリピートの異常伸長であることが判明したので、本邦のハンチントン病患者を対象としてCAGリピートの実態を調べた。その結果、リピート数の分布については、本症の頻度が著しく低い本邦の患者も遺伝子的には頻度の高い欧米のそれと変わりがないこと、CAGリピート数は発病年齢と逆相関をもっていること、20歳以下の若年で発病する場合はCAGリピート数は著しく多く、しかもその場合は父親から異常遺伝子を受け継いでいることが極めて多いこと、さらに、本症の頻度が高い国々では正常人の中に異常との境に近い程のリピート数を示す者の頻度が高いこと、などを明らかにした。これらは欧米の所見と一致している。 (3)本邦のハンチントン病を対象として、IT15遺伝子内で多型を示すCCGリピートに関してハプロタイプ解析を行ったところ、我が国のハンチントン病の起源は欧米のそれとは異なっており、我が国独特のものであるかあるいはアジア地域で発生したものであることが強く示唆された。 (4)異常に長く伸長したCAGリピートはIT15遺伝子の中の翻訳領域にあるが、それに対応した異常に長いグルタミン鎖をもつ蛋白が発現していることを我々はウェスタン解析によって世界で初めて示した。
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