研究概要 |
心筋小胞体膜蛋白質ホスホランバンは,蛋白質間の直接相互作用によってカルシウムポンプATPase活性を制御することにより心筋の収縮・弛緩特性を調節している。我々は,蛋白質化学的及び分子遺伝学的手法を用いて両者間の相互作用を修飾することにより,小胞体膜のカルシウム輸送制御が2つの膜蛋白質の相互作用によってなされている生物学的意義と,それの破錠時の病態生理を検討している。 単離小胞体濾胞を化学的に修飾することによるホスホランバンの調節様式の検討において,膜内の疎水性相互作用を阻害すると考えられる高級アルコールのカルシウム依存性ATPase活性に対する影響を解析した。その結果,10〜100μMのlauryl alcholによって用量依存性のVmaxの増加とKmの増加がみられ,ホスホランバン燐酸化や抗ホスホランバン抗体によるATPase活性化と異なり,ATPase活性化とカルシウム親和性亢進の間に解離がみられた。現在,この細胞生物学的意義の検討とともに,小胞体膜内での相互作用にあずかる部位同定のため,ホスホランバン疎水性ドメインの合成条件の検討を進めている。 小胞体カルシウムポンプATPaseには3種類のisozymeがあるが,これらのキメラを作成し,キメラポンプ蛋白質とホスホランバンをCOS-1細胞に同時発現させることにより,カルシウムポンプATPaseのホスホランバンとの相互作用部位を同定した。即ち,骨格筋速筋型及び心筋型カルシウムポンプはアシル燐酸形成ドメインとヒンジ形成ドメインの2箇所でホスホランバンと相互作用を営むことを明らかにした。引き続き,細胞内カルシウム制御における小胞体膜輸送の意義を検討するため,筋芽細胞への同時発現系を作成している。また,両蛋白質遺伝子の転写レベルでの制御が細胞内カルシウム代謝に与える影響と,両遺伝子の発現調節機構について検討を行っている。
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