研究概要 |
現在、臨床肺移植の問題点は移植後の慢性拒絶反応に加えドナー肺の不足が最大のものである。臨床上、肺保存の安全限界が10時間しかないため緊急手術として行われていること、また移植直後に起こる再潅流障害により肺水腫や呼吸不全が生じることが問題として残っているため、良好な肺保存液の開発と再潅流障害の防止のための検討が必要と考え研究を開始した。肺保存は、臨床的にはユーロコリンズが用いられているが、我々はサーモプロテクテイブな物質である糖類トレハロースを含み、グルコネートを陰イオン源にヒドロキシエチル澱粉(Hydroxy Ethyl Starch,HES)を膠質浸透圧源にした細胞外組成のET-Kyoto液と細胞内組成のIT-Kyoto液の2種類の臓器保存液を作製した。その結果、ET-Kyoto液の20時間犬保存における有効性が示され、30時間犬保存においてもUW液に比べ保存液として優れていることが示された。よって、現在報告されている保存液では最も優秀なUE液に比べ、より優れた国産の肺保存液を開発し得た。また、ADF(Adult T Cell Leukemia derlved Factor)は、生体内の酸化還元を調節する人サイオレドキシンであり、活性酸素スカベンジング活性を有することが明らかにされている。従って、ADFが肺の再潅流障害を軽減する可能性があると考え、動物モデルにおいてその効果について検討した。ADFは、ラットやラビットの再潅流モデル、犬の同種肺移植における肺障害モデルで肺機能を改善し、再潅流障害を抑制することが示された。また、活性酸素の測定結果からADFは有効なラジカルスカベンジャーであることが証明された。この効果はN-アセチルシステインと比較しても強力で、ADFが酸化ストレスに対して有用な生体防御物質になりうることが証明されたことは臨床肺移植を安全に行うためにも有意義である。
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