研究概要 |
我々は、癌間質にFibronectin(FN)の分布が強陽生である症例にリンパ球浸潤も著明である傾向が見られることを免疫組織化学的手法を用いて把握しているが,今回は本年度の研究計画に則り癌間質におけるFN・T-Cell,B-Cell,Macrophage(M)の分布を検索し、FNとこれら免疫担当細胞の関係および口腔癌の予後との関係について比較検討し興味ある知見を得たので報告する。研究対象は、当科外来において生検を施行した未治療の口腔癌のうち,高分化型扁平上皮癌30例とし,同症例のうち病歴調査により結果の得られた20例についてKapran-Meir's法を用いて5年生存率を求めた。方法は採取した組織材料を10%ホルマリン固定後,パラフィン切片とし,リンパ球浸潤の検索にHE染色,FN,T-Cell浸潤;B-Cell,Macrophageの分布の検索にはモノクローナル抗体を用いてSAB法にて免疫染色を行った。その結果,FN分布とリンパ球浸潤度(LI)の間には正の相関傾向が認められ,(T-Cell浸潤度)(T1)もLIとおよそ一致したFNとの相関を示した。B-Cellの浸潤に関してはFNとの相関は認められなかったが,Mの浸潤度(MI)はTI同様にFNとの相関傾向を示し,またFN分布の顕著な症例においてTIとMIは正の相関性を有していた。さらにFN分布と予後との関係において,FN陰性症例では0%,FN弱陽性症例では40%;FN強陽性症例では78%であり,FN分布と予後は有意に正の相関傾向を示した。FN強陽性症例に予後良行例が多いのは同症例におけるT-Cell浸潤が高度である傾向が認められるためであると考えられたが,FN強陽性の高度T-Cell浸潤症例とFN陰性の高度T-Cell浸潤症例の予後を比較したところ前者の方がより高い5年生存率を示したため,この仮説は覆えされた。何れにしても,上記の結果よりFNは癌間質において,癌の進展を阻止しているものと思われた。
|