研究概要 |
ラット肝臓初代培養系を用いて、細胞の増殖・分化・接着を司る情報伝達系を解析した。肝細胞を低細胞密度で初代培養すると、細胞はG_0/G_1期を脱出してS期に入り増殖する。このS期への移行に先立ってbetaアドレナリン受容体とG_Sとの共役状態が脱共役より共役へと転換し、Gsを介するアデニレートシクラーゼ活性化の結果生成するcAMPが細胞増殖に関与する。一方、細胞を高細胞密度で培養すれば、細胞は増殖せず分化した肝細胞特有の機能を示すが、この分化期にはalpha_1受容体はGqを介してCa^<2+>を動員する。細胞が傷害を受け脱分化の方向へ移行すると、Ca^<2+>の動員が脱分化に先立って減弱する。このメカニズムは、Gqを介して活性化されたホスホリパーゼCgammaの産生物IP_3(イノシトール-1,4,5-P_3)が結合するCa^<2+>動員チャネルのスペアレセプターが減少し、IP_3親和性が減弱するというものである。細胞分化に至る情報におけるこの顕著な事象の役割は現在検討中である。一方、成熟ラットの肝細胞の表層の糖蛋白質を介する細胞接着が細胞の増殖→分化をひきおこすことが証明された。糖鎖の末端はガラクトースで、ホモフィリックな結合に関与する。ガラクトースにシアル酸が結合すると細胞の機能的接着が消失し、細胞は分化期を脱して増殖へと向う。すなわち、肝細胞においてはシアリル化酵素の働きで細胞の増殖←→分化が規制されていることが見出された。この糖蛋白質を介する細胞接着が、どのようにして上述のalpha_1(またはbeta)アドレナリン受容体からの情報生起を支配して細胞分化(増殖抑制)に至るかは今後の課題である。
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