分子モーターの化学・力学エネルギー変換過程に直接アプローチするため、はじめに装置の開発を行った。改造した光学顕微鏡下で数mmから0.1nm以下までの広い範囲で操作できるマイクロマニピュレーターに微小ガラス針を連結し、その先端で蛍光標識した一本のアクチンフィラメントの一端をとらえる。針を操作し、アクチンフィラメントのもう一端をガラス表面に固定したミオシン分子またはミオシンフィラメンに接触させる。そこで発生した力と運動をガラス針の変位から決めた。ガラス針の変位はその像を2つの光検出器の中央に投影し、検出器の光強度の差としてとらえた。この方法で、それぞれ0.1nm、0.1pNそして0.1msの高分解能で変位が検出できた。この装置を使って、数個から数十個のミオシン分子が発生する張力ゆらぎを測定することに成功した。等尺条件では、大きな張力ゆらぎ観察された。そして、張力ゆらぎの解析から、アクトミオシンの張力発生はランダムオン-オフキネティックスに従っていることが分かった。オン、オフの反応速度定数、オン状態での個々のミオシン頭部の発生する張力を決めた。このように、個々のミオシン頭部の張力発生の素過程を初めて明らかにした。ガラス針による負荷を減らし、アクチンがミオシンコート表面に沿って滑り運動ができるようにすると、張力ゆらぎはほとんど消えた。このことはアクトミオシンが負荷の大小で、ATP分解とパワーストロークサイクルの共役を柔軟に変えることができることを強く示唆している。
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