研究概要 |
植物の種子の多くは乾燥状態に置かれても、種によっては凡そ180種に及ぶ揮発性物質を生成・放出していることが明らかになった。これらの一部はGC-MSによって同定されたが、単純な炭化水素(Propylene,Butene,Butane等)からモノテルペン類(α-Pinene,β-Pinene,p-Cymene等)種々のアルコール、アルデヒド類が含まれることが明かとなった。これらの内、多くの種子に一般的なものは、Methanol,Acetaldehyde,Ethanol,Acetone,Isopropanolで、これらの放出は相対温度(RH)と密接に関連し、国連が計画している遺伝子銀行の予定地の-3.5℃でも認められる。澱粉種子・脂肪種子とに拘らず、EthanlとAcetaldehyde間の相互変換は高いRH下で起り、乾燥種子中でのAlchol脱水素酵素の作動が確認された。また、高RH(53〜75%)下では種子内で加水分解反応が進行していることが、Ethylacetate添加の場合にEthanol更にはAcetaldehydeが検出されることから示唆された。一方、低いRH(12〜33%)下では、エステル化反応が優先することは、微少揮発性成分であったEthylacetateと共に封入した場合に、Ethylacetateの放出が増加することから証明された。これらの物質の多く、特にAcetaldehydeは乾燥貯蔵中の種子の発芽力を顕著に低下させた。以上の事実から、遺伝子銀行等での低温密封容器貯蔵中に起る種子の劣化は、種子自身の放出する揮発性物質にもよることが推定された。この可能性は一週置きに真空処理を行ない、種子に蓄積した揮発性成分を除去した場合に、種子発芽力が高く保たれることから証明された。尚、最近になって、GC-MS分析によって種子による放出ガス成分に違いがあることが分かり、ガス成分放出に種特異性があることが推定されるに至っている。以上の事柄から、永久凍土を活用する国連計画の具体化には、生成揮発性成分を除去するシステムの活用が必要なことが明らかになった。
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