本年度の成果で特筆すべきことは、乾燥種子が貯蔵中に放出している揮発性成分の多くを、前年度に購入したガス濃縮機構付きのGC-MSを用いて同定し得たことである。この結果については投稿中であるが、種子は最も毒性の強い事が分かっているアルデヒド類を種子は15種も放出していること、この程度は寿命の短いもので(ニンジン等)大きく、長いもので(エンドウ等)小さいことから、種子の劣化とアルデヒド類の生成とが密接に関連していることが示唆された。特に、アセトアルデヒド同様に強い劣化誘導に働く3-メチルブタナールの放出が確認されたことの意味は大きい。また、全ての種子でこれらのアルデヒドは結合水しか残さないような12%という低い相対湿度(RH)の下でも生成された。自由水も存在し得る75%RHよりはその中間の湿度下での方が多量に生成された。しかし、気体として基質を与え、生産物をGCによって追跡する手法によって、アルコール脱水素酵素(ADH)の活性を測定したところ、この酵素は乾燥種子内でも活性を示し、しかもその活性は湿度の高まりと共に増大することが分かり、高湿度下での種子の速い劣化と低い湿度下での遅い劣化とは異なる過程で起っていることが判明した。尚、アルデヒド類に限らず、殆ど全ての種子由来の揮発性物質は乾燥種子内で大気中から供給される僅かの水分に基ずいて生成されたものであることを、RH調整に重水(D_2 O)を用いる実験で証明した。即ち、大部分の揮発性成分はDが入った分だけ、重くなっていた。アルデヒド類は脂質の酸化からも供給される可能性があったが、種子の劣化は無酸素条件下でも進むことから、この可能性は否定された。尚、ADH活性は液体窒素中では認められなかったが、-80℃下でも僅かに認められたことから、低温度低湿度下でも進行するような種子の劣化は、そこで生成されるアルデヒド類による可能性が明確となった。
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