当初の研究計画に従い、研究はほぼ順調に遂行された。その結果、次の通りの実績をあげることができた。 1.本研究に必要と思われる諸資料および参考書類をできるかぎり調査・収集・整理して、研究体制を固めた。 2.「中国仏教研究会」の会員諸氏の協力を得て、『微密蔵経』の解読を慎重に進め、『六十華厳』との異同などを考察し、本経の翻訳上の特徴をおおむね捉えることができた。これによって、本経は全般的に『六十華厳』性起品と極めて類似するが、いくつかの無視できない相違点もあることが、具体的に明らかとなった。現在、それがどういう理由にもとづくのか、また漢訳史上ないし中国仏教史上においていかなる意味をもつのかを、関連する諸訳や後代の華厳研究文献に照らして究明することが、これからの重要な課題であると認識している。 3.「中国仏教研究会」を2回開催し、会員諸氏と討論を重ねて『微密蔵経』の問題点をさまざまの角度から検討し、解明した。しかしまだ議論をつくしたとはいえないので、次年度も引き続きこれを開催して討論を重ね、本経の全貌が明らかになるよう努めたい。 4.3月4日(木)、京都の華頂短期大学において開催される第8回七寺古逸経典研究会においてこれまでの研究成果の概要を発表し、会員諸氏の批判を仰ぐとともに、研究上の有益な助言を得たい。とくに、本研究会はすでに七寺一切経の中のいくつかの経論について優れた成果を出しているので、「七寺本」という側面から『微密蔵経』の性格に関して意見を聞き、今後の研究に役立てたいと希望している。
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