本年度は、研究代表者、分担者が、それぞれのスタンスから「いのち」観念にあらわれた日本人の宗教性についての総括的研究を行ない、著書・論文として発表した。山折哲雄は、著書『お迎えのとき-日本人の死生観』の中で、日本人の死生観にあらわれた宗教性について、「断食死」と「安楽死」、日本仏教と「病気」などを素材にしながら、包括的に議論した。鈴木貞美は、著書『日本の「文学」を考える』の中で、「純文学」「大衆文学」「私小説」などの既成概念を再検討するなかで、それらを横断してあらわれてくる日本文学の生命観を、文字史の位相から解明した。森岡正博は、著書『生命観を問いなおす』の中で、1980年代の日本を席巻した「80年代生命主義」の思想史的位置付けを行ない、そこに内在するロマン主義の姿を析出した。また、生命観についてのアンケート調査の整理を行ない、日本人の生命観に秘められた「いのちの弁証法」についての仮説を提示した。
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