研究課題
本研究は、画像(ビジュアル・イメージ)と言語の親和性、つまり両者は対立するものではなく、むしろ相互に補完するものであるという点を、ヨーロッパなど他の地域の美術にみられない東アジア美術の特徴のひとつと考え、具体的な作例に基づいてその特質の実態を明らかにし、あわせて画像・言語の比較研究のための一般問題・理論の提示を試みることを目的としている。本年度は、主に関連作品と資料の調査収集と基礎データの蓄積を中心に研究をすすめた。主な調査対象は、1.雪村周継の水墨画などの作品群(於茨城県立歴史館)2.甲府市善光寺所蔵の木造源頼朝像等3.白描源氏物語図(もと画帖、名古屋個人蔵)4.中国および日本中世の水墨画作品群(於岡山県立美術館)などであった。当初の目標には至らなかったものの多くの資料と知見を得ることができたが、本年度は、資料の収集を研究の中心としたため、美術史における画像・言語の比較研究のための一般的問題の摘出とその理論化については手つかずのまま終了した。次年度は、画像と言語の相互的な関係について3つの代表的なタイプとして、1.画像・言語を作品内部の構造にもつ例……絵巻(絵と詞)、水墨画・肖像画(絵と賛)2.言語テキストを典拠とする画像……物語・説話・故事にもとづく画像、経典にもとづく宗教像3.生活空間のなかで伝承される画像……漆工、染織などの工芸品の文様・意匠を想定し、これを基準に個々の作品群間の関係を明瞭にしながら研究の取りまとめに向かいたい。