本研究の目的は次の2つであった。すなわち、1.(1)主として近交系マウスを用いて、新奇な自由場面でのマウスの諸自発活動成分が、出現頻度や系列特性などに関して一定の構造をもつことを示し、(2)その構造がどのように遺伝するかを近交系およびそれらの交雑集団を用いて検討することである。また、2.学習過程で獲得される行動は、このような生得的制約を受ける自発活動の構造に依存することを示すことであった。これは回避学習により検討が加えられた。その結果、1.(1)については以前に検討済みで、その結果も既に公表されている。平成4年度は、直接観察法を用いて、BALB/cとC57BL/6マウス、およびそのF1とF2のオープンフィールド行動の系列構造を分析することによって(2)が検討された。その結果BALB/c特有のストレッチング行動を中心とする系列がC57BL/6の移動行動や立ち上がりを中心とする系列構造の中に特徴的な形で組み込まれる(遺伝する)ことが分かった。 2.既に先行研究が行なわれ、同様に研究論文として既に公表されている。平成3年度には実験が2つ行なわれた。最初が上記先行研究の追試であったが、結果が先行研究と一致せず、電撃強度が反応型を変化させる重要な要因であることが示唆された。そこで次の実験-1では、それに対する反応型が電撃強度の関数としてどう変化するかを観察し、次の実験-2で異なる反応型をとらせる強度の電撃を3種類用いて、2つのタイプの反応型(立ち上がり型と走行型)がともに正反応となる回避学習のプロセスをみた。その結果、実験-1ではC3H/Heは電撃強度の上昇につれて跳躍が急激に増加するのに対し、他の3系統は走行が増えることが分かった。実験-2の結果、跳躍が増加する電撃強度でC3H/Heは立ち上がりや跳躍型の反応により回避する割合が他の系統よりもずっと多くなることが分かった。このことは、電撃に対する直接的な反応型が回避反応として獲得されやすいことを示している。 本研究ではおおむね基本的な考え方を支持する結果を得たが、目的1と2をよりよく統合するために、他の学習課題での検討がさらに求められる。
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