本研究の目的は、収容型施設ではなく地域で生活するダウン症者の早期老化現象を心理的機能の面から明らかにすることであった。併せて、早期老化の発見のための評価方法の開発を目的とした。第1年目(平成4年度)には、ダウン症の実態を把握するために東京都内の各種通所作業所227カ所を調査対象として郵送にて調査した。回答のあった94カ所の424名のダウン症者のうち、約13%のものが機能の退行・老化を示していることが明らかになり、また、症患、行動面にも問題があることが示された。 これらの調査を踏まえて、第2年目(平成5年)には、40名のダウン症者を対象として様々な面からの個別検査等を行い、早期老化の心理的機能を明らかにした。知的機能面での記憶・空間知覚や行動面での退行や運動機能の低下、さらに身体的老化徴候などが明らかになった。特に本研究では、ダウン症者の知的機能を評価するための「ダウン症侯群の精神状態テスト」とダウン症者の早期老化を心理的に評価するための「ダウン症侯群の早期老化度チェックリスト」を開発したことは大きな成果であった。特に、早期老化をしめすダウン症者を「ダウン症侯群の早期老化度チェックリスト」を用いてタイプA、タイプS、タイプSAに分類できたが、これは今後の課題として考えられる早期老化の予防や対処の方法に大きな示唆をあたえるものと確信する。
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