研究概要 |
実験現象学的立場から実験を行い、その結果に基づいて諸現象生起の基礎にある法則の発見と、その妥当性について吟味してきた。今年度は、主として非感性的完結化(amodal completion)の問題と層化の現象について観察・実験を行った。 その結果、幾つかの重要な事実を見出した。これらの成果の一部はすでに内外の学会及び雑誌に発表した(日本基礎心理学会、European Conference on Visual Perception および雑誌;Percepturl and Motor Skills(1993)など)。結果を要約すれば、(1)単純な輪郭図形にあっても、その内部を線分によって分割すると、単に内部に線分を有するひとつの平面という体制化ではなく、線分を境界として図と地の関係が生まれる。この時、ルビンの杯にみられるのと同様の明るさの差異の強調化が観察される。この強調化は線分の形と幅に依存して変化する。これは“もの"が知覚される最も原初的な発生形態を示すものと考えられる。(2)同一輝度でありながら連続した二つの形態が重なって見える非感性的完結を示す面において、それが静止している場合と運動している場合では現象的様相がまったく異なる。静止と運動における体制化の過程を考察する際に充分考慮されるべきである。(3)Ehrenstein,W.,Spillmann,I.等の研究にみられる、neon color spreadingをロッドで構成した十字形で観察した結果、紙やCRT上の二次元的な配置の場合と同様、層化の仕方が異なると、非感性的完結化、すなわち、ロッドはスリットとして現れ、その背後に色彩円形の存在が明瞭に観察されることが明らかとなった。 さらに多様な現象を観察、吟味し、現在の分類をより精緻化することによりさらに完成された法則性を導くことができるであろう。
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