研究概要 |
平成2・3年度文部省科学研究費(一般研究B)助成による北九州玄界灘海域における漁民社会の学際的研究にひきつづき、本研究では玄界灘とならんで西南日本における漁撈文化の形成過程の上での重要な地域と考えられる豊後水道(九州・大分県日豊海岸域,四国・愛媛県宇和海沿岸域)をめぐる漁民社会の民俗形成とその地域的特質の検討を実地調査を行なうなかですすめてきた。豊後水道は古来、海上交通の要衝として知られ、九州,四国,瀬戸内をつなぐ文化交流の場としても歴史的に位置づけられる。こうした歴史的背景をもとに、豊後水道海域に面する大分県日豊海岸各漁民社会ならびに宇和海沿岸漁民社会の間には、海をへだてながらも、技術的・信仰的・経済社会的交流・交渉があり、双方の漁民文化に多くの類同性を見い出すことができた。 本研究では、これら豊後水道をとりまく漁民社会の存立基盤を調査研究することで、九州・四国における釣漁民を中心とした技術的・社会経済的・宗教的・言語的交流の実態を検討し、わが国の漁撈文化史上における地域的特質の解明を意図したものであった。そのため、調査地を大分県南海部郡米水津村ならびに愛媛県宇和島市魚泊地区の二地区に設定し、当該漁民社会の社会構造,信仰体系,言語的特徴ならびに歴史的形成過程などを民俗学的方法を基盤とした上で歴史学,言語学,文化人類学の視点をも加味し、総合的に検討を果してきた。 その結果、当初の予想通り、両地域には、江戸時代より、海をへだてながらも漁民間に人的交流(移住や婚姻)をはじめとして、物的交流(消費財や生産要具など)や方言上の共通性など、多くの民俗要素間の類同性が確認され、近年に到るまで、この海域は地域漁民にとってきわめて重要な海上生活圏として、生活に密着しつつ存在してきたことが確認できた。
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