研究課題
今年度は当初の計画にしたがい、約2ヶ月に一度のペースで、研究分担者による研究会を開き、本テーマにかんする報告および出席者による討議が行なわれた。そこでまず相互の了解事項となったことは、各自が自らの研究領域において、「商人」もしくは「外国商人」と呼ばれる史料上の言葉を集め、それらの資料について、その地域・年代を明記してカード化するということであった。このことについては現在、研究分担者による作業が進行中である。また研究会においては、商業交易が生活習俗にどのような影響を及ぼしたかについて、個々の分担者がそれぞれ興味深い報告を行なった。とりわけそのさい明らかになったことは、前近代とくに日本とヨーロッパの古代・中世における商業活動が生活習俗に及ぼした役割が、近代以降のそれとはまったく異質のものだということであった。古代・中世では商業交易自体が局地的でかつ商人自体も卑しい存在とみなされており、生活習俗への影響は緩慢として地域差に富んだものである。いっぽう近代から現代にいたる商業交易の役割は、政治や経済と一体となり社会のあり方自体に大きな刻印を残している。そこで来年度は、近代以降の世界と前近代世界における商業交易と生活習俗の問題を対比的に扱いながら、近代化というものが生活習俗の変容にはたした役割をさらに考えていくことにした。今年度は資料のカード化と本テーマに関係する基本的図書の購入、また研究分担者による各地の図書館への資料収集などが主として行なわれたが、来年度には何らかの当該テーマについての研究分担者たちによる明確な成果が上げられるものと期待される。いずれにせよ、このようなテーマでの世界史的視野に立った共同研究はまれであり、商業というものがもたらした文化変容についての比較社会史的な研究成果は我が国の歴史学界にとり大変貴重なものになると考えられる。
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