本研究は、中国地方を制覇した戦国大名毛利氏、同一族、同家臣の家系に伝来する原文書の蒐集調査を推進し、江戸時代における長州藩編纂事業の際にその基準からはずれて捨象されていた文書を発見し、あわせて原文書によって編纂物(写本)の誤読を正したり、花押の形状、封の様式等を確認すること、又それらを翻刻.紹介する為の基礎的研究を推進すること、そしてそれらを通じて当時の歴史的世界をより豊かに再構成した成果を発表していくことを目的にしている。 今年度は、とくに東京大学史料編纂所・山口県文書館・沖縄県立博物館・浦添市美術館・福岡市博物館・長府博物館・大分市歴史資料館・山口市禅昌寺等個人宅において、未刊・未見の関係史(資)料の蒐集調査を進め、多くの新出文書の発見を含め、貴重な成果をあげた。 そのうえ、次の二点について研究論文として発表しえた。 一つは、「江田家文書」の基礎的研究に基づいて、江戸時代の写本の誤読を正し、従来の説と異なって、吉田興種が毛利氏によって討伐された事件は、彼が永禄12年(1569)の大内輝弘の山口侵攻に呼応したためであり、同年の10月のことであったと断定したものである。 二つは、永禄11年に石見益田氏が安芸吉田の毛利氏のもとに出頭した際の儀礼関係史料を翻刻・紹介し、献上品に虎皮など外国産品が含まれていること、会席に諸種の海産物が用いられていることなどに注目し、更に琉球の外交文書ー歴代宝案ー等の分析を加え、益田氏の海洋領主的な経済構造とその展開について東アジア的規模において究明し、初めてその実態を明らかにしたものである。
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