本研究は、中国地域を制覇した戦国大名毛利氏、同一族、同家臣の家系に伝来する原文書の調査を推進し、江戸時代における長州藩編纂事業の際に、その基準からはずれて採録されなかった文書を発見し、あわせて原文書によって編纂物(写本)の誤読を正したり、花押の形状、封の様式-墨色等を確認すること、またそれらを翻刻紹介するための基礎的研究を推進すること、そしてそれらを通して当時の歴史的世界をより多様により豊かに再構成した成果を公表していくことを目的にしている。 今年度は、とくに山口県文書館、毛利博物館、防府市満願寺、福岡市博物館、鳥取県立博物館、厳島神社、大阪城天守閣博物館等において、未刊・未見の関係史(資)料の蒐集調査を進め、多くの新出文書を発見するなど貴重な成果をあげた。 そしてまた、今年度は、本研究の最終年度の成果としてふさわしい次のものを研究論文として公表した。すなわち、山口県阿武郡阿東町の波多野家所蔵の「都野家文書」、広島県佐伯郡大野町の王舎城美術宝物館所蔵の「三隅家文書」中の新出文書を翻刻紹介し、それによって豊臣政権下に至る毛利氏領国の領主家の譜代下人の実態、また彼ら下人の逃亡に対応した領主間の人返協約の成立とその実態等を解明し、このような当該時代の社会構成を描くのに不可欠の文書が、江戸時代の長州藩の編纂事業の中で閥閲録や譜録等に収録されなかったのは、その事業の基本的性格が、江戸時代の主従の観念に基づく「判物」中心の編纂であったためであることを指摘し、江戸時代と異なる中世の社会・文化構造をより多様により豊かに再構成していくためには、ここ十数年間にわたって私が進めてきている中国地域の大名領国関係史料の蒐集調査と研究が一層推進されることが重要であると指摘している。
|