(1)現在日本に伝存する近世貿易関係計数史料は、(1)唐・蘭船から提出される積荷帳、(2)長崎会所で作成する値組帳・代物替帳・輸出貨物帳、貿易決済の出帆引合帳、貿易収支の明細をしめす長崎会所勘定帳、(3)入札のために個々の商人が作成する見帳・切本帳および落札帳に大別される。 (2)その各々について可能なかぎり網羅的に収集検討したが、特に上記の(3)は、本研究により計画(申請)時の予想よりはるかに多く伝存することが判明した。ただし撮影不許可(杏雨書屋村上文書)、目録公刊まで未整理扱い(天理大学図書館山本屋文書)のような膨大な文書群もあって、残された課題も多い。また今後も多数の発見が予測される。 (3)成果の一部は、別紙様式5のように公刊した。 (4)本報告書では紙幅の関係から、『通航一覧』収録の1596〜1807年の輸入関係の積荷帳(以下同じ)、影印本『唐蛮貨物帳』(1709〜1713年)、「長崎秘録」(1760〜1762年)、「紅毛船年々積荷書等品々」(1806〜1816年)、「崎陽齎来目録」(1830〜1842年))を例示した。断片的ではあるが、今日知られる輸入史料の80%以上は収録されている。 (4)これにより、(1)唐蘭船輸入品のほぼ全品目が網羅され、特に薬種・薬品・科学機器・蘭書などの外来文化の受容状況は注目に値する。(2)通常の市場流通品のほか幕府・閣老・長崎奉行・長崎地役人が、高級反物・高価薬・科学機器類・銃砲・蘭書などを、恒常的に海外に注文買いしている(転売等による収益を含む)文化受容の先導性が明らかになる。また鳥獣輸入の状況から食用・品種改良の目的も推測される。(3)なによりも、オランダ側史料との対比が可能になり、従来の研究にかなりの見直しを迫るものである。 (5)その他の直組帳・代物替・輸出積荷帳・引合帳・長崎会所勘定帳は、本報告とともに今年中に出版助成を申請する予定である。
|