研究課題
数人の予備的な報告をもとに、本年度は主として方法論を決めるための討議にあてた。その結果、食生活と食文化を歴史学として取り扱う方法として、次の二つを考えた。(1)個々の食品ー小麦・ライ麦・トウモロコシ・ポテト・砂糖・茶・トウガラシ・トマト・米などーについての分析。この方法は、広く歴史的世界全体を対象とすることが可能で、しかも同じ食品が別の文化的ミリューのなかで、どのように異った扱いを受けるか、といった点で比較研究も可能になることが予想される。しかし、その反面、この方法はいささか陳腐で、画期的なファクト、ファインディングはむずかしいとも思われる。また、研究者にヨーロッパの研究者を欠いているので、この方法はややとりにくいという欠点もわかった。(2)特定の地域・時代の社会における食生活・食文化をひとまとまりとして捉えるー食事の時間、回数、主食・副食の区別、調理法、食事作法(象徴的意味を含めて)などー方法。この方法は、社会構造や文化的価値体系との関係が分析しやすいので、本研究グループとしてはより望ましいが、視点がやや恣意的になりやすい欠陥も認められる。今後は、この二つの視角を併用しつつ、ポイントを工業化前後の時系列的変化に絞り、分析をすすめることになった。工業化に伴う労働慣行や生活習慣の変化、とくに時間規律の強化および生活環境の激変ー農村的環境から都市的なそれへーと食習慣、食文化の変化を跡づけることにつとめるが、ことの性質上、分析の主たる対象はイギリスに収斂してゆくことになるものと思われる。