平成5年度の研究実施計画では、前年度に引続き、須恵器(主として杯)を全方向型X線透過装置と走査型電子顕微鏡によって観察し、須恵器製作技法の復原を試みた。また、X線マイクロアナライザーと蛍光X線分析装置による胎土分析によって、須恵器の産地同定の可能性を探ってみた。 まず、製作技法の復原については、須恵器破片の断面を電子顕微鏡によって観察したが、その結果光学顕微鏡では確認できなかった胎土中の空隙が観察され、一部ではそれが規則性をもっているように見えた。これは、粘土紐積みあげによる成形時の痕跡-粘土紐の継ぎ目にあたるものと思われ、研究代表者の仮説に有利な結果を得た。なお、全方向型X線透過装置による観察では、成形技法の痕跡を認めるのが難しく、良好な結果は得られなかった。 次に、須恵器の産地洞定についてFTIRを用いた示差吸収スペクトルでは、産地のちがいによってある程度の差があらわれた。今後詳細な検討を続けるなら、限定された狭い地域の産地同定も可能となるであろう。 また、複数の産地の粘土を焼成したテストピースと、出土須恵器との成分分析結果を比較検討し、産地同定の精度を高める試みは、作業量が膨大で結果を出すには数年を要することがわかった。この実験研究は、今後も継続して実施したい。 今年度の研究結果から、須恵器製作技法の復原には、仮説に基づいて須恵器を模作し、それと出土須恵器との両者の製作技法を比較観察するという実験方法が、最も有効であることがわかった。比較観察に電子顕微鏡やX線透過装置を用いることはいうまでもない。この研究は、ようやく緒についたところであり、将来大きな成果を生むことは間違いない。
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