外貨の法的取扱につき、本年度は英米及び日本における検討の状況に関する基礎作業を行なった。研究成果は、専ら平成5年度に公表するという、当初からの予定に従った作業である。上記作業においては、外貨を(自国通貨と異なり)マネーとしてではなく、コモディティつまり物と把握する考え方が、意外に根強いことが判明した。私はこの方向を批判する立場に立つ。円とドルとをそれぞれの使用通貨とする対立債権間での相殺、即ち、マルチ・カレンシー・セットオフが難しくなる(とくに倒産絡みの局面)、との懸念があるからである。だが、英米での取扱は、もとより英米での外貨を物と扱うことに基づく法律効果との対応で考える必要がある。その事情は日本法の場合、若干異なるのではないか。この点を、ドイツ・スイスでの外貨の取扱とも対比しつつ、今後検証してゆくつもりである。なお、損害賠償通貨の問題については、最近多発するタンカー事故との関係で、国際訴訟がいくつか起きており、そこにおいて、かなり注目する判断も示されて来ている。本年度には、アモコ・カディズ事件(フランス沖でのタンカー事故に伴うフランス・アメリカ間での訴訟)はじめ4〜5件の重要ケースを見出だし、目下、検討を進めている。それらとは別に、BCCI事件関連の各国での処理の問題についても、本研究の文脈において、検討を進めている。いずれも、平成5年の夏休みに基礎作業を終え、成果とりまとめにかかる予定である。米・イラン、米・リビア金融紛争での外貨の取扱についての検討は一応終了した。
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