本件研究の目的は民事訴訟法大正15年改正に関する立法関係資料を可能な限り包括的に収集し・整理することと、大正期の民事訴訟法改正過程を明確にし、立法関係者の種々の意見を分析することによって、この改正の全貌と性格を明らかにすることである。 研究期間(平成4・5年度)を通して、まず、民事訴訟法〔大正改正編〕の資料集の第1〜第5巻を刊行することが課題であったが、この課題は幸い実現した。松本博之ほか編著『日本立法資料全集10〜14・民事訴訟法〔大正改正編〕(1)〜(5)』(1993年・信山社出版)がこれである。第2の課題は、資料の客観的分析を通して、また大正期の民事訴訟法文献・判例をも参考にしながら、大正期の民事訴訟法改正の原因、とくに訴訟遅延の問題、改正経過、法曹界の反応を検討して、この改正の性格を明らかにすることであったが、この課題のうち、(1)改正作業の過程(とくに「民事訴訟法改正調査委員会」における審議の内容)と、成立した民事訴訟法改正案に対する法曹界の反応については、詳細に検討することができた。改正の必要性を主として訴訟遅延の解消に求めた政府側と、酷い訴訟遅延の不存在を主張して馴れ親しんだ法典の改正に反対する法曹関係者とくに弁護士層との対立の模様、さらに帝国議会における激しい対立を資料によって裏付けることができた。(2)大正15年改正によって導入された新しい制度・条文の成立の由来を明らかにすることができた。たとえば独立当事者参加の新設のさいの紆余曲折、準備手続の原則化の事情等、枚挙に暇がないほど多数の制度の新設・改善をめぐる議論を明らかにすることができた。これらの点の研究成果は、添付の「民事訴訟法大正15年改正について」と題する冊子に纒められている。
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