本年度は日本の産業について伝統的産業組織論のフレームワークに基づく実証研究をできる限り新しい資料を用いて行うことに主な目的があった。そのために以下の様な手順で研究が行われた。 1.最新の資料を含むデータの収集・整理ーー市場構造要因である集中度、需要の成長率などの変数、また市場成果である利潤率の基礎データを収集し、整理した。また、次年度の研究への準備として、東証一部上場企業について企業別の研究開発費、売上高のデータの収集が行なわれ、現在その整理が進行中である。 2.基礎的データのコンピュータへの入力ーー収集・整理されたデータはコンピュータに入力され磁気情報としてデータベース化された。これらのデータは実証分析が可能な状態に整備・加工され、必要なデータ変換がなされた。また、次年度の研究の準備として日本では希少と思われる研究開発費の企業別データの入力も開始された。 3.実証分析の一部実施ーー伝統的産業組織論のフレームワークに基づく計量分析を行なった。具体的には、データが利用可能な日本の91産業について(1980‐1990年)利潤率と市場構造諸要因との関連についての回帰分析を行なった。その結果、集中度の利潤率に対する説明力は余り大きくなく、また時系列的に見るとその説明力が次第に落ちてきている事が確認された(矢根真二[1986][1991]と同様の結果である)。この結果の産業組織論における意味についてのよりすすんだ検討は今後の課題とされている。 4.伝統的フレームワークに基づく実証分析の限界の検討ーー現代的視点に立ち、伝統的産業組織論のフレームワークに基づく実証分析のにどのような限界があるのか、見極めることは、今後の課題となっている。
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