1.伝統的産業組織論的フレームワークによる日本産業の実証分析 産業組織論の構造-行動-成果のパラダイムに基づき、利潤率-市場構造要因の関連について、日本の製造業91産業(1980〜1988)について実証分析を試みた。特に集中度-利潤率仮説に焦点をあて、従来の実証結果とどのように異なるかに注意を払いながら行われた。その結果、 (1)従来1960年代、1970年代についての多くの実証研究で確認されていた、集中度と利潤率との間に統計的に有意な正の関係があるという傾向は、1980〜1988年についての今回の結果では、一部を除いては確認できなかった。すなわち、従来考えられていたのと異なり、集中度の利潤率に対する説明力は1980年代に入ってからは余り大きくなく、また時系列的に見るとその説明力が低下してきていることが確認された。 (2)しかし地方では、集中度と利潤率との間に統計的に有意な正の関係を確認したという一部の報告もあるから、これらの実証研究の結果の適切な比較検討も必要であろう。さらにこの仮説についての総合的判断を下すためには、もう少し整備された条件の下での実証研究の結果の蓄積を待たねばならないだろう。 2.企業規模と研究開発に関する実証分析--シュンペ-タ仮説の一考察として1990年度の日本産業のうち531企業について3つの視点から回帰分析を行った。その結果は、 (1)全産業についての回帰分析結果では、弾力性をあらわすα_1は1より大であった。3次式のあてはめでは、いずれも企業規模の草加関数となり、屈折点の存在は確認できなかった。 (2)産業別の回帰分析については、α_1はいずれも統計的に有意となり、15産業中、13産業で1より大となった。この結果はシュンペ-タ仮説を支持するように見える。 (3)しかしながら、従来の実証研究との相異を説明するためには、今後より整備された実証分析が必要である。
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