研究課題/領域番号 |
04451112
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
小山 明宏 学習院大学, 経済学部, 教授 (50146320)
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研究分担者 |
上田 泰 明治大学, 商学部, 助教授 (70201952)
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キーワード | 企業資本主義 / 経営者支配 / 裁量的経営主義 / 経営参加 / 共同決定制度 / 企業集団 / エージェンシー理論 / モニタリング |
研究概要 |
日本の企業が『企業資本主義』と呼ばれる体制の根幹とされ、海外諸国と比較して従業員や株主が軽視されていると指摘されるようになって久しい。これは、企業システムにおける『支配機構』の問題として取り上げられるものである。企業経営をめぐる日本での過去の議論では、企業の実態を追認し、「会社それ自体が従業員・株主という実体と同一視されうるものだから、会社の為に働く事が即座に従業員の反映を意味し、日本の会社は従業員を幹とした『従業員人本主義』だ」等という経営者のみの立場に立った議論が注目を集める傾向があった。確かにわが国では、実態としては企業は経営者(陣)のものであり、(個人)株主、ましてや従業員等は全く発言権はなかったが、この点でドイツの共同決定制度では監査役会の存在によって株主代表監査役、労働者代表監査役が取締役会の意思決定をモニターし助言を与えるという形で、経営者(陣)が行う経営政策に何らかの関与を行うことが制度化されているところに意義がある。 本研究ではまず企業における様々なエージェンシー関係をできるだけエージェンシー・コストを削減しつつ安定したものにするような企業システム、企業体制のデザインを試みた。日本的経営とエージェンシー・コストの削減という観点からは次の3点を確認した。 (ア)グループ内資金調達、株式の相互持合、(イ)銀行による株式保有によりエージェンシー・コストは、有意に削減されていると考えられる。また、(ウ)配当の情報効果を是認するならば「硬直的な配当政策」は、エージェンシー・コストの削減を妨げている。 このように企業集団の役割は非常に重要であり、わが国の株式会社制度の欠陥を補う役目も果たしている。様々なわが国固有の取引慣行や制度も、日本人と外国人では見方に差が出てくるが、その部分だけを見て主張を行うことは危険である。 ドイツにおける共同決定とエージェンシー・コストに関しては、現状では監査役会の果たす機能は、経営と株主・従業員間のエージェンシー関係において、十分なモニタリング手段とは言いきれないところがある。監視の隙間あるいは欠陥(die Uberwachungslucke)と呼ばれるこの事態を打開するためにさまざまな提言がなされている。そしてその多くが、制度自体の改変ではなく、その運用に関する改変や見直しの提言であることが興味深い。 このようなドイツの経営参加モデルと、我が国企業の裁量的経営主義モデルは、数理的分析と両モデルの操作化により、各モデルのコンポーネントの機能、エージェンシー・コスト削減に果たすその役割、そして全体としての安定性などを考察することが可能となる。これにより、日独企業の比較が、現象面だけでなく確かな理論的裏付けを伴って行われることになる。ただ、この点に関してはまだ完全な結論へ至ってはおらず、日本異質論への論理的な回答とともに今後の課題となっている。
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