現代のいわゆる株式会社制度における企業のトップマネジメント機構は、既に繰り返し主張されて来ているように、それが考察された時の精神は失われ、株主の意思を代表し、あるいは代行するための機関という職務を遂行するものではない。この問題が過去如何に認識され、どのように取り上げられて来たか、そして特に、そのようなトピックが、歴史的にも数多く言及されてきたドイツでの議論の経緯をフォローして、エージェンシー理論のフレームワークを利用しつつ検討する。まず、エージェンシー理論の数理的な取扱を概観し、次に、トップマネジメント組織の経済分析へのそのような手法の適用を行った。ドイツにおいては経営者に対する充分なモニタリングは既存の株式会社制度では困難になっており、この点に関してドイツで発生した論争をエージェンシーりろの観点から再構成すると、エージェンシー・コストの削減のかめには一層のシステムの改善が必要であることがわかる。具体的にこれは、更に、株式会社制度における監査役、監督役の機能・位置付けの問題へと発展し、制度の変更や、変更までには至らないまでも定性的な構造・前提の向上を提起している。一方わが国においては、歴史的に見ても株主の権利を尊重したり重視する風潮はない。株主ではなく銀行を中心とした企業グループによる支配というのがわが国に特徴的なシステムであるためで、銀行による陽表的な経営関与を特徴とするドイツとは違って、わが国ではそれらが『陰然的な』影響力、支配力を行使している。いわゆるメインバンクシステムと呼ばれるこのシステムのおかげでわが国の企業は高い成長を享受してきた。そしてそれは同時に、銀行による『コ-ポレートガバナンス』の適切な維持という機能をも併せ持っていたのである。企業の銀行離れという昨今の傾向は、資金調達という目先の意思決定だけにとらわれた、危険な面を持つ傾向であると考えられる。最後に本研究ではコ-ポレートガバナンスの観点から企業の支配統制機構の日独比較を行い、解を模索している。
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