知的な側面に障害を有する児童の知能障害を、従来の重度、中度、軽度といった障害程度に基づくのではなく、その構造的差異に基づいてタイプ分類し、適切な教育指導法を開発することを目的とした。 知能障害児は発達途上にあり、障害を受けた脳部位が本来担うべき機能に加え、他の機能が副次的に障害を被っている可能性がある。また、おそらくこの影響もあり、種々の感覚モダリティ、機能水準の検査・測定に関して評価のための基準値を確定しうるだけの知見が蓄積されているとは言い難い。そのため、まず知能障害児がそれらの検査・測定においてどのような様相を示すのかについて検討した。 教科指導については、上述した事由および指導に長期間を必要とすることから、脳の損傷部位が比較的明瞭な児童を対象とするものが中心となった。その過程で次のことが明らかとなった。知能障害児においては、成人脳損傷者において認められる機能障害と同等のものを認めえたが、それ以外にも同じ部位の成人脳損傷者では基本的に出現しない機能障害をも認めえた。損傷部位の同定の精度との兼ね合いで、両者を厳密には比較しえないが、知能障害児の場合、おそらく本来であればその機能を基盤として獲得されていくはずの機能が、土台となるべき機能が不全であったために獲得しえないこととなったと考えられた。したがって、成人脳損傷者に比べ、児童における脳機能障害の様相は一層混沌としたものになろう。ゆえに、プリミティブな機能障害と副次的にもたらされた機能障害とを識別し、段階を追って機能形成を図っていくことが必要である。ただし、知能障害児の場合、多くは器質的病変の確定が困難であり、事は容易ではない。種々の機能の発達・形成過程と状態評価のための基準値とに関する一層の検討が必要である。
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