読譜研究を進めるにあたって課題曲を使用しているが、被験者のピアノ学習の経験量の違いで楽譜上の音符に対する眼球運動の注視点の数と位置と時間の差異が明らかになった。注視点の一コマが0.33秒に取って「トークアイデーター解析システム」で分析しており、被験者が楽譜から"音楽"としての情報を得る過程と、表現された"音楽"の実際を比較検討している。 被験者は教育学部の学生であるが、大学入学までのピアノ学習経験の個人差は、例えば0年〜12年と大きく開いている。しかし、彼らが教育現場に出た時に、教師として音楽の授業で必要な読譜力の基礎能力とは『楽譜を読んで音楽の心像を持つ』ことである。大学卒業までの授業で習得すべき読譜力のレベルの認識を学生が個々に自覚し、努力する方向へのメソットを提示することが必要である。そのために、演奏をせずに楽譜を黙読する場合の読譜時の眼球運動と初見演奏時の比較、初見演奏と初見演奏から経験を重ねた状態での演奏との比較、黙読の読譜と口唱の読譜と口唱しながら演奏する場合の比較、の実験をした。そして、読譜能力を育成するための「読譜練習張」を作成してその学習経験の効果を、ピアノ演奏時の眼球運動にどのように表れるかを数理化して検討を進めている。実験のデーター調整に手間取っているが、(1)読譜力の高い被験者は、音符への注視点と実際に音して出るまでのタイムラグが1秒以上あり、音符の先読みをしていることが明らかになった。(2)読譜力の高い被験者は黙読と口唱と演奏の3つの場合の読譜完了時間の差が10秒以内に納まる傾向にある。(3)「読譜練習張」の効果は、読譜力の低い被験者には学習効果が大きい。
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