教員養成大学の学生(幼児教育・初等教育)を対象に、音楽の基礎能力として楽譜を読む読譜力を養成する必要から、彼らの読譜時の眼球運動を実験調査して読譜学習のための基礎データを収集した。大学入学までの学生の音楽学習経験は、義務教育期間以外の個人的な経験に差異が有る。経験差を考慮に入れ、課題曲を黙読、微唱、筆記(階名を書く)ピアノ演奏する時の眼球運動を記録した。眼球運動は注視点の位置、滞留、軌跡で解析分析した。実験は次の3通りである。 実験I 読譜練習帳(音程の練習帳・リズムの練習帳)による五線楽譜の学習効果の検証 実験II 読譜練習帳学習期間にみる読譜時の眼球運動の考訂 実験III 初見演奏時にみる読譜時の眼球運動の証明 実験Iでは被験者各自が所要時間を記録し、実験II・実験IIIではアイカメラを使用して一人ひとりの眼球運動を記録した。 研究成果として判ったことは、(1)瞬時に音程を読み取ることは読譜経験の積み重ねである (2)楽譜を黙読時から音楽のイメージをどのように把握しようとしているかを眼球運動から推測できる (3)黙読時に、有効視野内にある楽譜に記されている全ての記号(既有の知識)を応用できる人は、音楽の熟練者である (4)演奏時(微唱・ビアノ演奏)に音符の先読みができる人は、声や音を出すまでに音楽のイメージをつかんでいる (5)音楽学習経験で楽曲構成の約束事を修得しているかどうかによって、表記された楽譜から音楽の脈絡をつかむ差が表れる 以上のことから、読譜能力は大学入学以後の読譜経験と楽曲分析の経験によって成長が期待されるといえる。教員養成大学では音楽教育カリキュラムに読譜練習と和声学、対位法などの基礎を組み込むメソッドが求められているのではないだろうか。
|