本研究においては、励起子格子強結合系の緩和現象に対する物理的理解を明確にする為に、今まで多くの研究がなされているアルカリハライド結晶とともに、それとは異なる結晶構造・結合性を有しているCaF_2、SiO_2をも対象として、主にフェムト秒領域における励起子緩和過程についての知見を得る事を目的とした。以下にその各々の成果の概要を列記する。 1)電子的素励起の緩和状態の明確化に関する成果 (1)アルカリハライド結晶中で生成される三重項自己束縛励起子とF-H中心対の生成収量の間に、相補的関係が存在する事を明らかにした。 (2)アモルファスSiO_2中で生成される自己束縛正孔(Self-Trapped Hole;STH)を、光吸収と電子磁気共鳴法で研究し、2種のSTHの構造について重要な知見を得ると共に、それらの電子状態を明かにした。 (3)SiO_2中の一重項自己束縛励起子の存在をはじめて見いだした。 2)フェムト秒時間分解分光による電子的素励起の緩和動力学にかんする成果 (1)KBr及びKI中の正孔の自己束縛過程を研究し、KBrでは、2中心形STHに至る局在正孔状態の振動緩和過程を見いだし、一方KIにおいては、2中心形STHの生成が、1中心型STHの状態を経て生ずる事を明かにした。 (2)KBr、RbBr中での電子・正孔対の格子緩和過程を研究し、(1)で述べた緩和途上にある局在正孔とそれに束縛されている電子との複合状態が、緩和の初期生成物である事、この複合状態から、F-H中心対とオンセンター型STEが、温度に依存する分岐比で励起後数ps以内に発生し、オンセンター型STEは、その後、熱的に誘起される断熱不安定性によって、オフセンター型STEおよびF-H中心対へ緩和する事を明かにした。 (3)CaF_2中に3光子吸収によって励起子を発生させてその格子緩和過程を研究し、STEの生成が、緩和途上にある電子・正孔対から直接生成される速い緩和過程と、中間状態を経由して生成される遅い緩和過程の2つの過程を経て生ずる事を明かにした。この2つの緩和経路の速度及び両者の分岐比は温度に依存しない。 本研究によって得られたこれらの新たな成果は、電子格子強結合系の緩和現象を統一的に理解する上で、極めて重要な知見を提供している。
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