我々は、レーザー誘起蛍光の飽和効果を利用して、ポリマー中の単一サイトにある色素分子の光スペクトルを決めることができることを明らかにした。さらに、これを解析する一般的な方法を導き、これを用いて、上の光スペクトルのフォノンサイドバンドの形状から、電子格子相互作用で重みづけされた振動モードの状態密度スペクトル(以下WDOSと略記)を求めることに成功した。これは非晶質物質でWDOSが求められた最初の例である。このスペクトルを用いて計算で求めたいろいろの温度におけるレーザー誘起蛍光スペクトルは実験結果をうまく再現した。これは上の方法の正しさを示す結果である。そこで次に我々はこの方法が生体高分子にも適用できることを確かめるためにZn置換ミオグロビンを対象に実験を行い、色素をドープしたポリマーの場合と全く同じやり方で第一サイトにあるミオグロビンの蛍光スペクトルを求め、さらにヘム電子とまわりのペプチド鎖の結合強度で重みづけされた蛋白質の振動モードの状態密度スペクトル(WDOS)を決定した。これらのスペクトルとホールバーニングスペクトルのフォノンサイドバンドとの比較も行なった。また、吸収帯の低エネルギー領域でサイト選択を行なうことにより、飽和効果を利用することなく、より簡便な方法で単一サイトの蛍光スペクトルが求められることも明らかにした。色素をドープしたポリマーについて実験的に求めたWDOSから振動モードの状態密度スペクトルを計算し、ポリマーのラマンスペクトルから推定したものと比較することによりフラクトン描像の妥当性についても検討した。なおEu^<3+>イオンを含むガラスについて、そのフォノンサイドバンドが現われるメカニズムについても研究した結果、イオンと分子振動の間の静電的な相互作用が重要であり、さらにイオンのまわりの結晶場によるJ混合効果も考慮する必要があることが明らかになった。
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