本研究は、レーザー冷却によってmK程度まで減速されたイオンと原子分子間の衝突過程を量子飛躍信号を通して検出し、極低温におけるイオン衝突の特性を明らかにすることを目的としている。 本年度はまず、常温の各種緩衝ガスとの衝突によってRFトラップに蓄積されたMg^+イオンの特性がどの様に変化するかを調べた。その結果、衝突相手がイオンよりも軽い場合、緩衝ガスとの衝突によってイオンは冷却されるが、イオンよりも重いガスとの衝突では、閉じ込め用のRF電場のエネルギーが吸収されて加熱が生じることが明らかになった。我々は、弾性衝突を仮定したモデルに基づいて、これまで経験的にしか知られていなかったRFトラップ中のイオン温度と緩衝ガス圧の関係式を導出し、実験結果を定量的に再現することに成功した。これらの解析から、緩衝ガスとの衝突によるイオンの冷却限界が1000K程度であることが明らかになった。 更に、リングダイレーザーの第2高調波によって発生させた280nmの紫外光によるレーザー冷却によって、Mg^+イオンを極低温化した。トラップ中のイオン数が比較的多い場合、冷却は緩やかに進行し、到達温度は1K程度である。この場合冷却限界は、イオン衝突によるRF加熱によって決まっていることが明らかになった。これに対してイオン数が減少すると、レーザー冷却によって相転移が起こり、イオン結晶が形成されることが確認された。現在は、量子飛躍の観測に適したBa^+のレーザー冷却を進めている。 これらと並行して、新しいタイプの線形RFトラップ電極についてその閉じ込め特性を理論的に評価し、従来型のトラップに比べてレーザー冷却効率が著しく上がることを明らかにした。本トラップは必要に応じて来年度の実験に取り入れていく予定である。
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