本研究は、レーザー冷却によってmK程度まで減速されたイオンと原子・分子間の衝突過程をイオンからの蛍光観測を通して検出し、極低温におけるイオン衝突の特性を明らかにすることを目的としている。以下に研究成果を具体的に記す。 1.イオンの衝突冷却:rfトラップ中にMg^+イオンを蓄積し、常温の緩衝ガスとの衝突による冷却を行った。レーザー誘起蛍光スペクトルのドップラー広がりからトラップ中のイオンの温度を計測し、緩衝ガス圧と質量に対する依存性を明らかにした。イオンが衝突時にrf電場からエネルギーを受けとるrf加熱の効果を取り入れることによって、イオン温度のパラメータ依存性を系統的に再現するモデルを確立した。 2.イオン集団のレーザー冷却:レーザー冷却によって数十個のMg^+イオンを減速し、狭窄化した非対称な蛍光スペクトル形を観測した。レーザー冷却効果とイオン同士の衝突によるrf加熱効果を記述するモデルに基づいてスペクトル形を定量的に解析し、イオンの冷却到達温度が数Kであること、冷却用レーザー強度が十分に強い場合には中性原子との衝突によってイオンの温度はほとんど上昇しないことを明らかにした。 3.イオンクラスターの生成:トラップ中のイオン数が数個程度まで減少すると、レーザー冷却によって10mK程度まで極低温化されたイオンはポテンシャルの安定点に固定されてクラスターを形成する。イオンからの2次元蛍光像を観測し、最大3個のイオンからなるクラスターの存在を確認した。残留ガスとの衝突によってクラスターが崩壊する様子を、蛍光像から直接観測することに成功した。
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