本年は3年度からなる計画の第1年度であり、基本システムを立ち上げ基礎データを得ることを目的として研究を開始した。本計画の基本は、原子の準安定励起状態をその上準位とレーザー場で強く結合する事によりいわゆるドレストステートを形成し、実効的に共通準位に緩和していく2準位を創りだすことである。このような2準位は量子干渉効果を示すことが理論的に予測されており、非線形過程に対し種々の興味ある特性が実現しえる。本計画の最大の眼目はこの量子干渉効果を実験的に定量的に明かにすることである。 本実験を成功させるための最大のポイントはドレストステートを形成するためのレーザー光の質であり、それが時間的、空間的、スペクトル的に高度に制御された高度の質を有することである。また非線形光学過程の観測には同時に2波長で発振することが必須である。初年度の最重要課題はこの条件を満たすレーザーシステムの立ち上げである。本年度において当研究室ではYAGレーザー励起の広帯域モードホップ無しで同調可能なパルス色素レーザーを開発し、それをコンピューター制御することにより上記条件を満たす2波長色素レーザーシステムを完成させた。本レーザーシステムは当初の目論見を十分に満たす内容で現在稼働している。 水素原子系における量子干渉効果を含む非線形光学過程の実験は、本研究の先駆けとなったdc電場による水素原子の2倍高調波発生のシステムを利用することにより既に開始されつつあり、予備的なデータが蓄積されつつある。なかでも光イオン化信号による量子干渉効果の観測は極めて明暸な結果をもたらしつつある。その内容は、dc電場による効果とはやや異なり、レーザー場によるドレストステートの生成の特徴が明確になりつつある。現状では本計画は順調に推移しつつあり次年度に大きな発展が期待できる。
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